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暗闘―スターリン、トルーマンと日本降伏
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| ジャンル: | 歴史,日本史,西洋史,世界史
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| 人気ランキング: | 47732 位
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神話を打ち砕く説得的な論証
1945年は敗戦の年である。それは日本人にとって忘れることのできない年であるが降伏にいたる経緯をめぐってはいまだに幾多の大きな疑問が残されている。誰が、あるいは何が、戦争を終結に導いたのか。原爆か、ソ連の参戦か。その渦中にあって日本の指導者たちはどのように振舞ったのか。天皇の果たした役割はどのようなものであったか。世上には多くの著作があふれているが日、米、ソ三国にまたがる広大な舞台で時々刻々に変転しつつ展開するドラマを過不足なく捉えるのは至難である。ましてや政治的な、さらには人道上の責任に直面した個々人の利害得失をめぐって展開される弁護、弁解、虚偽、欺瞞の数々は今日に至るまで真相の究明を妨げている。
本書は敗戦後60年の間に刊行された日記、回想録、研究書、さらには日本、米国、ソ連で入手可能な公文書を広く渉猟した上に成ったもので類書の群を抜く水準に到達している。冒頭において、太平洋戦争は日本がポツダム宣言を受託した8月15日に終ったのではなくソ連の千島占領が終結する9月5日まで続いたと指摘する。このように、本書はこれまで無視されがちであった、ポツダム宣言以後に顕在化するソ連の領土的野心を見失っていない。
ヤルタ会談でソ連の参戦を求めたアメリカは原爆を手中にすることによってその誤りに気づくが時すでに遅かった。ポツダム宣言は「実際には、原爆を使用することを正当化するために発せられたものであった」。アメリカでは、原爆は本土上陸作戦を敢行すれば失われたであろう100万のアメリカ兵の生命を救ったと広く信じられているがそれが神話に過ぎないことも明らかにされる。
ポツダム宣言の受諾は原爆よりはむしろソ連の参戦によって頼みの綱を奪われた日本政府の決断であった。ソ連は和平派にとっては講和の仲介者であり、継戦派にとっては「決号」作戦の鍵を握るものであった。この窮地にあって日本の指導者は日々どのような奔走に明け暮れたのだろうか。本書を読んで、これまで立役者とされてきた政治家たちが思いのほかに優柔不断であったことを意外に感じる人は少なくないだろう。真の和平派は彼らを縁の下で支え続けた人々の中にいた。
研究史において重要な争点を一つだけ指摘しておく
本書が非常に優れた研究であるということは改めて言うまでもない。
ここでは、原爆投下決定研究における重要争点の一つについて指摘させていただく
それは、なぜトルーマンは無条件降伏要求に固執し続けたのか、という点である。
従来の研究においては、大きく分けて以下の二通りの解釈がある。
[1]無条件降伏を要求し続ける限り日本が降伏しないことをトルーマンは理解していた。その上で
それを緩和しなかったのは、原子爆弾を投下するまで日本を降伏させないためであった。
[2]アメリカ国内の世論の多くが無条件降伏政策を支持しており、それを覆すことによるバックラッシュを恐れた。
長谷川は、この両者の解釈を全否定するわけではないが、独自の立場を打ち出している。
それは、トルーマンがパールハーバーなどへの報復措置として、「個人的信条として」無条件
降伏を追求したかったから、というものである。
この考えは、[1]の解釈において重要な人物として描かれるバーンズ国務長官の影響から、
ある程度トルーマンが自律していたということを意味する。また、[2]の点についても、
あくまで世論の問題は自らの政策の正当化のために利用したに過ぎないと論じるのである。
この点は長谷川の議論においては中核をなす論点である。なぜなら、トルーマンが、無条件降伏に
固執していたと見なすことによって、トルーマンの戦争目的が変わるからである。
すなわち、トルーマンは、「ソ連が参戦するよりも早く、無条件降伏を受け入れさせる」こと
を至上目的と考えていたのである。そして、それを達成するかに見えた手段が原子爆弾だったのだ。
原爆投下目的に対するこうした解釈は、少なくとも、ソ連威嚇が至上目的であったと考える
修正主義史家の主張よりは説得力がある。とはいえ、トルーマンがパールハーバーの復讐に
そこまでコミットしていたのかどうかは、さらに精査される必要があろう。
終戦史決定版
この本の良いところは、
先ず、史料に書かれていることを基本にしつつ、必ずしもそのまま鵜呑みにせず、史料上の発言者記述者の背景から合理的な類推を試みている点です。
次に、太平洋戦線における終戦史の主役である日、米英、ソ三者の立場、三様の振る舞いを各国の記録を相互に活用して検証し、その背後に意思の読み違いや、交渉テクニックの巧拙から出た様々な影響があったことを明らかにしている点です。
三つ目に、特定の政治的、民族的立場に偏らず、公正で客観的、時に冷淡に当時の出来事、当事者の判断、行動を評価している点です。これは、著者が日本で生まれ育った方で、現在は米国籍を取得し米国中心に活動を行っていることの影響が大きいかも知れません。
これまでの終戦史は、相当に資料を駆使している研究者においても、その研究者の民族的背景、国籍、活動場所、主に用いている言語などによって、史観や研究対象範囲が限定されていたというのが現実だと思います。
この本は、このあたりの縛りが少なく、その結果、従来我国内の常識であった解釈にいくつかの修正を与えるような研究成果を引き出したりしています。
特に、ソ連が広島原爆以降どのような考えを持っていたのか?我国の政府のポ宣言受諾判断にもっとも大きな影響を与えたイベントはなんだったのか?首相、陸相の強硬発言はそれぞれ本当に腹芸だったのか?などを解き明かしていく手腕には目を見張るものがあります。
まさに終戦史研究の決定版であり、一通り終戦経緯は掴んだと思われている方にも是非お読み頂きたい一冊です。
日本降伏経緯の合理的説明
お涙頂戴でもなく、昭和天皇の聖断万歳でも無く、アメリカやソ連を悪者にするのでもない、
客観的かつ合理的な終戦経緯の説明だと思える。まさにこのような書籍を待っていた。
私はボードゲーマーで、軍事面の知識はそれなりにあり、連合国の世界戦略の上での対日戦略の従属性、米側の日本軍の抵抗力に対する誤解について実感として(笑)知っているが、その知識からの推測と、この本の著述が整合していて驚いた。
この本を題材にして、日本の抗戦派、日本の講和派、アメリカのハードピース派、ソフトピース派、ソ連の5人で、日本をいつどのように降伏させるかを争うカードゲームとか誰か作らないかなあ?
実際、こういった、多数当事者による制限情報下の合理的戦略追求、という込み入った状況を説明するには、1次元の文脈切替えでつらつら記述する書籍より、2次元の図表に時間軸を加えて3次元で表現するゲーミングの方が優れてると思うのだけど。百聞は一見にしかず、というような感じで。
■各陣営の目的
抗戦派:国体護持、軍隊保持、戦犯訴追回避などの条件付き講和を目指す。本土決戦を辞さない。
講和派:本土決戦さえ避けられれば、無条件降伏も可。昭和天皇の訴追は不可。
HP派:無条件降伏の貫徹あるのみ。人的損害を避けるためソ連参戦を要請。
SP派:人的損害とソ連進出の回避。条件付講和も可。
ソ連:日本降伏を遅らせ、参戦を高く売って、満州、朝鮮、千島、樺太、北海道を占領する。
■イベントカード例
ドイツ降伏(ソ連参戦可能になる)、鉄のカーテン(SP派強化、ソ連参戦不要)、大和特攻(抗戦派弱体化)、日本軍善戦(抗戦派&SP派強化、ソ連参戦必要)、日本軍惨敗(講和派&HP派強化)、原爆開発成功(HP派強化、ソ連参戦不要)、原爆投下(講和派強化、講和チェック)、ポツダム宣言(条件提示、講和チェック)、ソ連参戦(ソ連VP獲得、抗戦派弱体化、講和チェック)、聖断(御前会議で自分に有利な1票追加)
大国の思惑と日本軍部の愚かさ
太平洋戦争における終戦前後の状況を、アメリカ・ソ連などの指導者の思惑と絡めて描いた力作。
私はソ連が"日ソ不可侵条約"を破って日本に侵攻したのは、ソ連の単独行動かと思っていたのだが、ルーズベルト、チャーチル、スターリンが出席したヤルタ会談で決まっていたのだ。この時点では、アメリカはソ連参戦を認めていた訳で、こうした国際情勢を無視してあくまで「戦争継続」を主張していた軍部、それを止められなかった政府には憤りと無力感を覚える。
一方、ルーズベルトが死去し、チャーチルが失脚するという事態が起きる。ルーズベルトの後継者トルーマンは残念ながら力量・経験が足らない。スターリンは思いのままに樺太、カムチャッカ半島への侵攻を始める。北海道も狙う。日本はソ連による和平工作に一縷の望みを持っていたのだが、それも絶たれた。これに危機感を覚えたトルーマンはソ連への牽制の意味を込めて、原爆投下を決意する(実験の意味もあったようだ)。何の事はない、大国のパワー・バランスのために原爆は投下された訳で、とても遣り切れない。前述したように、事態がここに到るまでに、何故戦争終結に向かえなかったのか、日本の軍部・政府に対して憤りを感じる。尚、トルーマンは原爆投下を「戦争終結を早めるために必要だった」と主張しているが、これは後出しの言い訳で、対ソ連を考えた国策だったのである。
一方、ソ連は満州にも侵攻して領土を拡大し、今でも有名なシベリア収容所で日本人捕虜6万人を死亡させた。終戦時、スターリンは国際舞台で一枚上の役者だったのである。終戦時の大国の思惑の中で翻弄される日本と、その中で早期の戦争終結策を打ち出せなかった日本軍部・政府の無能ぶりを迫真の筆致で描き切った力作。
中央公論新社
ロシア・ショック Racing The Enemy: Stalin, Truman, And The Surrender Of Japan We Are Smarter Than Me: How to Unleash the Power of Crowds in Your Business われ巣鴨に出頭せず―近衛文麿と天皇 ヒトラー・コード
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